比田井和孝 比田井美恵著 ごま書房 からの引用です。
ジミー・カーチスの話
結核がまだ死に至る病だったころの、アメリカのある病院のお話です。
その病室にも市の宣告を受けた7名の患者が入っておりました。
ジミー・カーチスはその1番窓際に寝ていました。
自分が動くことができない患者の中でジミーだけが、唯一、窓の外を見ることができました。
死と隣り合わせの同室の患者は、みんな心がすさんでいました。
その患者を前にして、ジミーは窓から見える光景をみんなに語り伝えるのです。
「おーい、みんな、今日は子どもたちが遠足だよ。黄色い鞄を下げている子がいるな。いやあ、ピンクの帽子をかぶっている子もいるよ。かわいいな。
3番目と4番目の子が手をつないで歩いている。きっと仲良しなんだろうなあ。
あ、空には黄色い蝶々が飛んでいるよ」
ところが、ある朝起きてみると、窓際にねていたはずのジミーがいません。
昨晩亡くなったのです。
するとトムという男が「俺をジミーが寝ていた窓際にやってくれ」と頼むのです。
しかし、看護婦さんたちは顔を曇らせて、なかなか言うことを聞いてくれません。
業を煮やしたトムは、声を荒げて怒鳴ります。
そこで仕方なく、看護婦さんたちはトムを窓際に移します。
喜んだトムは、
「俺はジミーみたいに外の景色をみんなに話してなんて聞かせないぞ。自分だけで楽しむんだ」
そう思って窓の外を見たのでした。
ところが窓から見えたのは、灰色の古ぼけた壁だったのです。
その瞬間、トムはジミーの思いがすべてわかったのです。
「ジミーは、壁しか見えないのに、自分たちのすさんだ心を励ますために、その壁の向こうに広がるであろう素晴らしい世界をああやって語り聞かせてくれたんだ。
それに引き換え、自分ときたら、自分だけ楽しもうなんて、なんと浅ましい心の持つ主であろうか。何という恥ずかし自分であろうか」
心から懺悔したトムは、ジミーに負けないくらい、素敵な思いやりをもって、次のように語り聞かせるようになったのでした。
「おーい、みんな、今日は花屋さんが通るぜ。車の中はバラの花でいっぱいだ。前の方は、あれはパンジーの花だな。あの隣に黄色いバラ。甘い香りがするだろうな」
★zekkoutyou
本書では、このエピソードから学べることを著者の言葉で書かれています。
引用は、この「お話」の部分だけにしました。
どんな状況にいても、「人に与える」ことはできるのですね・・。